2019年5月23日、今年も松下さんの田植えシーズンがやってきた。
大切に大切に育てた苗たちが、いよいよ苗場から大海原(田んぼだけど)に旅立つ日だ。
今日は天気も上々、苗場からカミアカリの育苗箱をそれぞれの田んぼに必要な数だけトラックに積み込んでゆく。
松下さんの田植えは、いちばん早いカミアカリで5月下旬から、いちばんおそい山田錦で6月中旬というふうに品種ごとに時期をずらして植えてゆく。それぞれ品種ごとの苗の状態を見て、ベストのタイミングで植えてゆくというわけだ。もちろん天候も絡む作業なので、この時期は毎日が勝負なのだろう。
それぞれの田んぼに苗を降ろしたあと、また戻って今度は田植え機をトラックに積み込む。田植え機はこんな急な傾斜も楽々上ってゆく。いざ出動!
トラックを田んぼの脇に停めて田植え機を降し、置いてあった苗を次々と田植え機にセットしてゆく。
シートに苗が生えているのかと思ったのだが、白いのは全て苗の根と聞いて驚いた。苗たちは育苗箱の中でびっしり根を張っていた。
カミアカリがつぎつぎと植えられてゆく!
田植えの済んだ田んぼは、まだ頼りなげな苗たちが風にそよいでいる。
松下さんが自分の田植えについて語っている。
「私の田植えの特徴をひとことでいうと、スカスカ。この近辺だと1坪あたり70株植えるのがふつうですが、うちは1坪50株植え。田植え機の設定を50株にしても、実際には欠株が出るので、実質45株くらい。」
「1株あたりの本数も少ない。ふつうは6~7本の苗を1株として、1か所に植えつけます。うちは苗2~3本で1株にしている。」
「自分のまわりに空間があれば、稲は太陽光を求めて葉っぱを広げ、横に大きくなる。根も茎もガッチリして、台風がきても倒れない稲になる。」
※「ロジカルな田んぼ」 松下明弘著より
「収穫にはほとんど関係ないけど。」と言いながら田植え機が入れなかったところを丹念に手植えしてゆく。
汚した道をきれいにするためかと思っていたら、こんな言葉が返ってきた。
「この一握りの土をどれだけの微生物たちが長い時間をかけて作ってくれているか。人間は何一つできないんですよ。」
軽やかな足取りでこちらに向かって歩いてきた。あまりの笑顔についついシャッターを押してしまった。(笑)
この日はカミアカリの田植えを3時間程度で終えたあと、次の田植えにむけて代かきの準備にとりかかった。
田植え機よりさらに大きなトラクターで代かきをするわけだが、ここにも松下さんの強いこだわりがある。
それは水をはったときに、田んぼの両端の水深誤差が1センチ、最悪でも2センチにおさまるよう、いかに田んぼを水平にするかということだ。
「私は代かきに、他の人の倍は時間をかけます。」
確かに薄く水のはられた田んぼは、土の高低差がよくわかる。松下さんは何度も何度も水面からはみ出している部分の土をトラクターで薄くすくっては、水たまりになっている箇所を丹念に埋めてゆく作業を繰り返した。
何のためにそこまで田んぼを水平にする必要があるのか?
そこには、徹底した土づくりの哲学があった。後編でそのあたりを詳しく紐解いてゆければと思う。
お楽しみに!