食べごろ撮りごろ

料理カメラマンの美味しい写真の話。

美味ららら 食材物語

「あっぱれ焼津 ! 焼津・小川(こがわ)・大井川、3港の底力。ミナミマグロ、サバ、桜エビ、生シラス。

投稿日:2024年11月6日 更新日:


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【焼津港 ミナミマグロ】

今日は10月10日。

今から60年前、東京オリンピック開会式が行われ、「体育の日」に制定されたことでも知られているが、この日は「晴れの特異日」と言われている。

「晴れの特異日」とは、統計上、晴れる割合が特に多い日のことらしい。

その甲斐あって、朝から目の覚めるような青空と、刷毛で描いたような白い雲。そして、駿河湾の向こうには、優雅に山裾を広げる名峰富士。

こんな日は、思わず叫びたくなる。

静岡って気持ちいい~ ! ! 

今日は、焼津の底力と自慢の海の幸をたっぷり味わえるということで、テンション高めで、目的地へ出発 !

最初は、焼津港。7時過ぎに到着。

長靴に履き替え、ネット帽をもらって、消毒用の水槽を通りぬけ、競り会場へ。241010_027 - コピー

ワオー、マグロが ゴロゴロゴロゴロ

冷凍マグロが、床に所狭しと並べられている。

競りは7時半からということで、事前に漁協の下田さんから、あらましの説明を受ける。
241010_003「今日の競りには、4社がミナミマグロを100本ちょっと出しています。」

「ミナミマグロは、南極に近い、南半球の冷たい海を泳いでいます。」

「並んでいるマグロには個体ごとに色の帯が付けられていて、それを見れば、どこの船が、どこの海で捕ったマグロかが、すぐにわかります。」

確かに、マグロの横に置かれているしっぽの切れ端に、色のついたビニール紐が付いていて、競りの始まる前から仲買人たちが真剣な眼差しで見つめている。241010_015 - コピー241010_014 - コピーそれもそのはず、このしっぽの断面には重要な意味があり、断面の肉質から、身の色合い、脂ののり具合、弾力などを吟味しているのだ。

この見立て次第で、自分の欲しいマグロを、いくらで競るかを決めることになる。

まさに、目利きどおしの真剣勝負 なのだ !

漁協の方から、マグロと海洋地図の描かれた、青いクリアファイルが配られた。

241010_004 - コピー見ると、マグロの種類と特徴、世界のどこの海で捕れるかが、地図にわかりやすく描かれている。

ミナミマグロは、インドマグロとも呼ばれるだけあって、インド洋近海に漁場が広がっている。

それに対して、青森の大間のまぐろで知られるクロマグロ(別名 本マグロ)は、北半球の冷たい海で捕られていて、日本海にも印が打たれている。

マグロにもいろいろ種類があるんだと思って見ていると、ざわついていた会場が、急に静かになった。

いよいよ競りが始まるらしい。

脚立の上に競り人が立ち、周りに仲卸人が集まっている。241010_025_s号令を合図に短いやりとりの声が飛び交う。しきりにメモを見ている者もいる。

聞いていても、何を言っているのかさっぱりわからないが、競り人が次々と何かを読み上げ、時折、仲卸人の短く鋭い声が飛ぶ。

たぶん競り落とす金額を言い合っているのだろう。

どんどん競り落とされたマグロが、その場から運び出されてゆく。

競りと言えば、指を使った「手やり」をイメージしていたが、ここでは仲卸人の声だけで、競り人は誰に落とすかを判断しているようだ。

よくこれで聞き分けられるものだと感心する。

10分ほどですべてのマグロが競り落とされ、 あっと言う間に終了。

なるほど、プロの仕事は早い

一息ついて建物の外に出ると、港には遠洋マグロ漁船が停泊し、その向こうに富士が顔を出している。241010_031 - コピー雪の無い富士がちょっと物足らなく思うのは、私だけだろうか。

漁協の方から、見学者のお土産にとビンチョウマグロの油漬を3缶いただく。241010_032 - コピーなかなか見れないミナミマグロの競りを見学できた上、お土産までもらえるとはありがたい。

焼津のミナミマグロの競り見学を一度体験すると、スーパーで刺身を見る目も変わるかもしれない。(それは言い過ぎか・・)

体験は、焼津市観光協会のHPから申し込める。

https://www.yaizu.gr.jp/meets-yaizu/

 

【小川港 サバ】

焼津漁協を後にし、車で2~3分走ると、左に円形の建物が見えてきた。241010_033 - コピー「アクアスやいづ」だ。

ブルーの濃淡のグラデーションが外壁に施され、駿河湾の海洋深層水を使ったプールや、海水、海藻、海泥による海洋療法(タラソテラピー)が人気らしい。

アクアスやいづ | 駿河湾海洋深層水のめぐみで健やかな毎日を (blueearth.co.jp)

その横には、シンプルな外観の「うみえーる焼津」がある。

2階が食事のできる「まぐろ茶屋」、1階は焼津漁協直売の「ヤイヅツナコープ」だ。

●まぐろ茶屋    https://magurocyaya.jp/

●ヤイヅツナコープ https://www.yaizu-gyokyo.or.jp/tunacoop/

まぐろ茶屋はまだ営業していないので、コープ店内をぐるっと一回りしてみる。241010_035 - コピー旨そうなマグロの塊が冷凍ケースの中にどっさり積まれていて、全部ミナミマグロらしい。

241010_036 - コピーツナコープの名前にもなっている「ツナ」とは、ウィキペディアによると、

「本来は生魚・魚肉の区別なく使う語だが、日本ではもっぱらマグロの漬油漬け缶詰めを意味する言葉として用いられている。」

とのこと。

建物を出て海の方に歩き始める。

植栽された小道を歩いてゆくと、目の前にドーンと視界が開けた。

ヤシの木と焼津 ?  (@_@) 

少し戸惑いつつ、傍らを見ると、白い2つの波が淡いブルーの台座の上でハート型につながったモニュメントが立っている。241010_037 - コピー台座には、「恋人の聖地」と書かれた銀のプレート。

ハートの波の真ん中に、カツオ頭の金の鈴。

コレが、「焼津ウェーブ&カツオベル」か 。

ここでちょっと豆知識。

「恋人の聖地」は、「恋人の聖地プロジェクト」が全国的に推し進めている活動で、その趣旨は、

「少子化対策と地域の活性化への貢献」をテーマとした『観光地域の広域連携』を目的に「恋人の聖地プロジェクト」を展開している、とのこと。

https://www.seichi.net/about/

「恋人の聖地」は、2021年1月現在で、全国に137か所あるらしい。

「焼津ウェーブ&カツオベルウェーブ」の魅力は、ウェーブの中に富士山がバッチリ入るようになっていることだ。241010_039 - コピー富士山入りのショットが撮れた二人は、きっと幸せになれる!(かも)

やっぱりここはヤシの木で正解か。松だと合わないよなぁ。と思いつつ、シャッターを切る。

「焼津ウェーブ&カツオベルウェーブ」のある「親水広場ふぃしゅーな」に別れを告げて、車で走ること僅か2分。

小川港に到着。

読み方は「こがわ」港。

正面に見える横長の建物、これが「小川魚市場」だ。241010_043 - コピー競りはすでに終わっており、柱と天井が黒い額縁となって、駿河湾と富士、そして地面の水に映ったブルーの秋空が、キャンバスに描かれた絵のようだ。

241010_045 - コピー建物の脇で何やら作業をしている人がいたので近づいてみると、今日仕入れた魚を店にもってゆく準備とのことだ。

鮮度抜群のカマスやアジ、イシモチが氷詰めになっている。241010_051 - コピー241010_052 - コピー漁協に戻って、小川港のサバについて話を伺う。

ご対応いただいたのは、橋本さんと大寺さんだ。241010_058 - コピー小川港は、古くから沖合漁業や定置網沿岸漁業が盛んで、年間水揚量の7割をサバが占め、全国有数のさばの水揚げ基地になっているとのこと。

小川の真さば漁は、大きなタモでサバを海からすくい獲る「たもすくい網漁」と呼ばれ、魚を傷つけにくいことが、「小川さば」のブランドに繋がっている。(小川漁業協同組合 https://kogawa-gyokyo.com/kogawasaba/

小川漁協では、さばチキン、塩さばフィレ、さば水煮缶など、サバを使った商品開発にも力を入れており、料理レシピもHPに多数掲載している。(小川漁業協同組合HP https://kogawa-gyokyo.com/kogawasaba/241010_065 - コピー私もせっかくなので、小川港バックにサバ缶を撮ってみた。漁船が入るともっと雰囲気が出せたと思うが、これはこれで良しとしよう。241010_062 - コピー

別れ際、取材記念に三人にサバ缶を持ってもらって、パチリ !241010_063 - コピー
観光協会の靍田(つるた)さんが、ぜひ見せたいところがあるということで、小川港から3分ほど車を走らせる。防波堤の下に車を停めて、石の階段を上ると・・ 241010_076 - コピー241010_078 - コピー

スゴーーーイ ! ! !

青い空 ! 青い海 ! 緑の芝生 !

そして、海の向こうに富士 !

あまりの景色に、思わず立ち尽くす。

写真ではこの圧倒的な開放感を伝えるのは難しいので、ぜひ実際に来て体験してほしい ! (カメラマンが言っては何だが・・^^;)

ところどころに置かれたベンチも、絵になっている !241010_079 - コピー

ここは「石津浜公園」

https://www.yaizu.gr.jp/spot/2663

もしあなたがここに来るとしたら、誰と来て、どんな時間を過ごしたいだろう。

記念撮影の三人に、初秋の明るい陽射しが降りそそぐ。241010_081 - コピー

【大井川港  桜エビ&生シラス】

さぁ今度は、今日最後の港、大井川港だ。

海沿いのまっすぐな県道355号を20分ほど走ると、港が見えてくる。

青空と白い船が水面に揺れて、ここにも富士がしっかり顔をのぞかせている。241010_082 - コピー絵が得意なら、カメラを置いて、スケッチでもしたいところだが、画家ののぞみはすぐに捨て、シャッターを切る。

港の横、大井川漁協を訪ねると、参事の大場さんが迎えてくれ、事務所で話を伺うことに。241010_085241010_086さて、ここで、あなたに問題。

日本で桜エビが捕れる漁場は、いくつあるか ?

正解は一か所。 静岡県の駿河湾だけ。

じゃ、次の問題。

日本で桜エビの水揚げがある港はどこ ?

由比港と答えた人も多いだろうが、実は、大井川港も昔から桜エビの漁港として大いに栄えてきた。

答えは、由比港と大井川港の2港が正解。

焼津観光協会のサイトに、桜エビ漁の動画も載っているので、ぜひご覧あれ。

https://www.yaizu.gr.jp

大場さんから教えていただいた話をざっとまとめると、

  • 大井川港の水揚げは、桜エビが7割強、シラスが2割
  • 桜エビ漁は、春漁(3月下旬~6月上旬)と秋漁(10月下旬~12月下旬)の年2回
  • シラス漁は、1月15日から3月20日をのぞく、すべての期間
  • 桜エビ漁は、昭和52年(1977年)に水揚げ額を均等分配する「プール制」が確立。資源保護と争いを避ける観点から、この制度が設けられた
  • 桜エビの主な漁場は、春は三保から駿河湾奥、秋は大井川沖
驚いたのは、地元でも大井川沖で桜エビが捕れることを知らない人が、結構いるらしい。

焼津大井川の桜エビをもっとみんなに知ってもらうために、漁協ではいろいろな取り組みをしている。

今年は大井川港開港60周年ということもあって、4月29日の大井川港朝一は、多くの人でにぎわったようだ。

https://youtu.be/GYzWRWWh9uQ  (Youtube 静岡朝日テレビニュース)

大場さんによると、ここ何年か不良が続いている桜エビだが、少しづつ回復の兆しが見えてきているらしい。

楽観はできないが、関係者の努力の賜物に違いない。

今や、台湾産の桜エビも多く出回っているが、食べているプランクトンが違うので、生や釜揚げで食べると、その味の違いがよくわかるらしい。

駿河湾産に比べて、台湾産はやや小ぶりで、乾燥エビの赤が若干濃い目らしい。

スーパーで買う時は、台湾産か駿河湾産の表示を見て、食べ比べてみるのも面白いのではとのこと。(値段も2~3倍違うけど・・)

いろいろ話を伺ったあと、事務所を出て港内の施設を案内してもらう。241010_087これが、捕れた桜エビを入れておく冷蔵庫。残念ながら漁獲量が減ってからはあまり使っていないらしい。241010_088写真を撮り忘れたが、港内に氷が買える大型の製氷機が設置されている。

専用コインを事前に買う必要があるが、それさえあれば、年中いつでも使えるらしい。10Kg 550円。(2024年10月現在)

イベントや釣りのクーラーボックス用に利用者も多いらしい。豊富な地下水を利用してつくっているとのこと。

大井川の伏流水の恵みが、こんな所にも !

港バックに記念撮影。241010_089時計を見ると、ちょうど12時。どうりでお腹が空くわけだ。

と思ったら、目の前に、「漁協直営食堂 さくら」241010_091足が勝手に歩いてゆく ! (笑)

大場さんが、「これが人気なんです」と指さしたのが、

「桜えびかき揚げ丼定食」_DSC9997 - コピー正真正銘の駿河湾産桜エビのかき揚げが2枚付いて、1000円 ! お膝元だからこそ食べられるこの値段だ。

という訳で、さっそく店内へ。

ドーンと目に入ったのが、このポスター。241010_097鮮度の良さが伝わるいい写真だ ! (ちょっとライバル意識(笑))

店内には大漁旗があちらこちにら貼られていて、テーブル席と座敷がある。お客さんが混みだす前でよかった。241010_092今日はこのあと、まぐろ茶漬けと鯖寿司の取材もあるということで、かき揚げ2枚は次回にとっておき、小盛りかき揚げ丼定食をいただくことにする。

ほどなくしてテーブルに運ばれてきた揚げたてのかき揚げ丼が、香ばしい香りと鮮やかな色で、私の嗅覚と視覚を使って、胃袋を攻め立てる。241010_101負けなそうな気持を必死でこらえて、なんとかシャッターを切る。

「うまい瞬間はカメラに食わせろ !」

料理写真の草分け佐伯義勝氏(1927-2012)が、懐石料理の重鎮「辻留」辻嘉一氏(1907-1988)から言われ続けた言葉だ。

よし、カメラよ食ってくれ !241010_099桜エビ一匹一匹が、思い思いの方向を向いて、自分の存在をこれでもかと主張している。

特性のタレがかかった瞬間、衣に身を包んだ桜エビに、じゅわっと甘ダレが浸み込んで、エビの赤が一層際立ってゆく。

カメラに食べさせる気持ちが、今すぐ食べたい気持ちに、かろうじて勝利した自分をほめてやりたい !

よし、食べるぞ !

と思った瞬間、観光協会の靍見(つるみ)さんの前に置かれた、生しらす丼が目に入った。

ん~、これもお前は食いたいのか !

もう一度、気持ちをふり絞って、カメラを構える。

たくさんのかわいいお目目がこちらを見つめている。

「はい、みんな笑ってー」なんて言わないぞ。241010_105でも、旨そうだ !

一匹一匹が透明感のある銀色に輝いて、駿河湾を泳いでいた姿が目に浮かぶ。241010_103丼全体、アップ、箸の持ち上げ、一通り撮ったんだから、もうカメラも腹いっぱいになっただろう。

今度こそ、 いただきます !

さくら特製の甘ダレが、香ばしい桜エビの衣に滲みて、口に放り込むと、サクサク、じゅわー。

もう一口、サクサク、じゅわー。 さらにもう一口、サクサク、じゅわー。

旨いいいいーーー ! ! !

口の中で桜エビが、王者の香りと味わいを、存分に発揮している。

そして、家来のネギやつなぎの衣は、控えめだがしっかりと王様を支えている。

「漁協直営食堂 さくら」のかき揚げは、王様が何人(何匹)もいる「桜エビ王国」だ !

そう言えば、店前の看板に、「桜えびは、大井川港で水揚げされた急速冷凍品を使用」と書いてあった。

急速冷凍とは、組織を壊さず30分以内で凍らせる冷凍方式のため、品質や風味、食感が冷凍前とほとんど変わらないと言われている。

今では、肉、魚、野菜、果物、ケーキなど、あらゆる食品で活用されている技術だ。

肉のドリップも少なく、天ぷらも揚げたてのようにサクサクらしい。

おっと、蘊蓄(うんちく)を言っている暇はない。

今度は、かき揚げのタレのかかっていないところに少し塩をかけ、口の中へといざなう。

ワオー、海を感じる !

カメラに一番旨いところを食べられたと思っていたけれど、ちょっとやそっとじゃ海のパワーはびくともしなかった。

みんなの笑顔が、幸せそうだ ! (^-^)241010_106

【HOTEL nanvan 焼津 まぐろ茶漬け】

旨いものは別腹ということで、桜エビと生シラスの幸福感を胃袋に残しつつ、焼津ICから車で1~2分のところにある「HOTEL nanvan 焼津」へと向かう。

https://nanvan.jp/

お目当ては、「まぐろ茶漬け」だ。

秋晴れの青空に、レンガ色の建物がよく映える。241010_107外観には特に海を感じさせる意匠は無いが、ロビーに入ってすぐ目についたのが、右奥の壁に掛けられた木製の大舵輪(だいだりん)だ。

241010_111触っていいと言ってくれたので、手をかけてみる。

エッ、回転する⁉

操舵室でビシッと制服に身を包み、舵輪手に指令を送る船長の凛々しい姿が目に浮かぶ。

HOTEL nanvanは、親会社の福一漁業株式会社が、まだ個人経営だった頃、南番(なんばん)という屋号を使っていたらしく、ホテルを始めるにあたって、「navigation and vanguard(航海の開拓者・先駆者)」の意味を持たせ、「nanvan」と名付けたらしい。

食事を提供するラウンジは、白を基調とした明るい空間になっていて、ここにも小さめの舵輪が掛かっている。

そして、驚いたのがコレ !241010_112特大の大漁旗が2枚、窓全面に垂れ下がる仕掛けになっている。

「福一丸」の文字が朝日と波にそれぞれ大きく描かれているのが勇ましい。

HOTEL nanvanでは、ミナミマグロ(インドマグロ)と、クロマグロ(本マグロ)の食べ比べが出来るらしく、一般的に言われているのは、同じ天然もので比較した場合、ミナミマグロは刺身の赤が濃く、クセのない甘みがあるのに対して、クロマグロは、独特の酸味と旨味が特徴とのこと。

いずれにしても、両者、引けをとらない旨さで、相撲でたとえるなら、東西ならぬ南北の横綱と言ったところだろうか。

さて、今回、HOTEL nanvanに伺ったのは、「マグロ茶漬け」を宿泊のお客さんに提供されていると聞いたからだ。241010_123朝食バイキングで出されるマグロの「漬け」を、お客さんはそのままご飯にのせて食べても良し、特製の出汁に海苔と山葵とネギを添えて、お茶漬にして楽しむこともできるとのこと。

使っているのは、「ビンチョウマグロ」

「ビンチョウマグロ」は、胸ビレがトンボの羽のように長いことから、トンボマグロとも言われ、身は淡いピンク色。

さっぱりとした味の中に濃厚さもあり、漬けの深みが加わって、出汁と薬味が一層旨味を引き立てる。

シンプルながら、自分好みの味に仕上げる楽しさがある。

ただ、この「マグロ茶漬け」は、宿泊しないと食べられない。

まさに宿泊者だけが味わえる、特権料理なのだ。

今回、取材にご対応いただいたのは、支配人の吉原さん。

優しい笑顔と穏やかな語り口は、開拓者というより、ジェントルマンと言った方が似合いそうだ。241010_115241010_120さて、話を料理に戻そう。

HOTEL nanvanに泊まって、朝食べたいのが「マグロ茶漬け」だとしたら、夜にぜひ食べたいのが、「最高級まぐろ丼」だろう。241010_126天然ミナミマグロの、トロ・中トロ・赤味・ネギトロを一度に味わえる、まさに看板役者勢ぞろいの一品だ。

マグロの赤、山葵・ネギ・大葉の緑、そして玉子焼きの黄、幸せの三色が、味の共演に彩りを添えている。

加えて、役者たちを縁の下で支えるササニシキの白と、丼の黒。

まさに料理の王道「五味五色」の「五色」が見事に表現されている !

ここまで揃ったら、私はどうしてももう一品加えたくなる。

そう、それはやっぱり 百薬の長 だ。(^-^)

静岡は、豊かな水に恵まれ、その恩恵を存分に受けた酒蔵がいくつも点在している。

吟醸王国と謳われ、その香りは主張し過ぎず、肴の旨味と溶け合って、新たな味わいの世界を広げてくれる。

おっと、ついつい別のブログになってしまうところだった。^^;

しかし、この見事な五色の一品を目の前にすると、どうしてもそのマリアージュが欲しくなってしまうのは、賛同してくれる方々もきっと多いのではないだろうか。

別れ際、大舵輪バックに佐藤館長と吉原支配人のツーショットを撮らせていただく。241010_118今度は絶対、泊りで来よう !

 

【岩清 さば寿司】

HOTEL nanvanを後にして、今日最後の取材先へと向かう。

車で走ること、約10分。朝ミナミマグロの競りを取材した焼津漁協から1~2分のところにある「鯖屋 岩清(いわせい)」だ。

民家が立ち並ぶ中央通りに、木造造りの建物が存在感を放っている。241010_128鯖屋という名前からも、鯖に並々ならぬ思いがあることが伺える。

軒先には青い暖簾が揺れ、玄関横に付られた木彫りの縦看板には、大きな黒い文字で「岩清」と刻まれている。241010_129暖簾をくぐって中に入ると、満面の笑顔で迎えてくれたのが、岩崎智子さんだ。

岩清の創業は、江戸天保3年(1832年)というから、今から190年余り前になるらしい。

天井には太い梁(はり)が何本も渡され、手桶にさりげなく活けられた季節の花と、外から入る暖かい日差しが相まって、気持ちのいい空間が生まれている。241010_130新しく改装された箇所もあり、伝統や歴史を残しながらのリノベーションにチャレンジされているとのことだ。

今の店舗が造られたのが120年前らしく、古き良きものを出来るだけ残しつつ、新しいものを取り入れてゆく、そんな気風が岩清190年の伝統を築いてきたのだろう。

今回のお目当ては、「鯖寿司」だ。

岩﨑さんによると、もともと岩清は鰹のなまり節造りが中心だったが、大正初めに近隣の小川(こがわ)港で冬場にマサバが多く揚るようになり、塩さば造りが始まった。

明治22年(1889年)に開通していた東海道本線の利便性を生かし、焼津で捕れた良質のマサバを塩サバにして、京都の中央卸市場に出荷するようになる。

鯖と言えば、福井の若狭から京都に続く鯖街道が有名だが、さしづめ焼津の鯖は、鯖鉄道と言ったところだろうか。

今では「岩清」を代表する一品となった鯖寿司も、その始まりは昭和の初め、お祭りの振舞いや客人へのもてなしに造り始めたらしい。

岩清には当時の面影を残す道具や写真が数多く残されており、それらを拝見しながら、佐藤館長の手で、「岩清」の歴史が次々と紐解かれ、繋がってゆく。241010_133241010_153241010_149

鯖をおし寿司にする木箱241010_135

明治の終わりごろから大正の初めごろに造っていた「鰹大和煮」のラベル241010_137

一通り話を伺ったあと、いよいよ「鯖寿司」の撮影へと取り掛かる。

銀青に輝くその肌は、一目見ただけで、その旨さが伝わってくる。

敷かれたハランと上に置かれた木の芽の緑が、より一層輝きを添えている。241010_139料理人の技の一品とは、まさにこの事を言うのだろう。

岩﨑さんが子供のころ、近所からいつも三味線の音が聞こえていたらしい。

焼津の水産業が隆盛を極めていた昭和の初め、市民からの公募で生まれた「焼津節」もきっと何度も奏でられていたに違いない。

なんと句の選者が、あの北原白秋というから驚きだ。

当時、日本を代表する詩人と長唄の三味線方に歌の制作を依頼できたのは、焼津に相当の財力があったからだろう。

余談だが、あの「ちゃっきり節」も、作詞は北原白秋だ。
  • 焼津市HP 焼津節と舞踊https://www.city.yaizu.lg.jp/museum/rekimin/bunkazai/yaizu-heritage/list/r6-2.html
  • 焼津節 選歌 北原白秋 作曲 杵屋栄蔵
    気前荒波 焼津の浜に いつも大漁の    ヨーイヤサ 鰹船
    雲の下から マトリが湧いた 木附き鰹か  ヨーイヤサ ナブラ立つ
    暑い日盛り 神輿はあおる あおるあおるよ ヨーイヤサ 荒祭り
    ヤマトタケルの 昔をしのぶ 焼津なつかし ヨーイヤサ 波の音
    富士の山より 名高いものは 焼津名物   ヨーイヤサ 鰹節
    夫婦出て干す 女節に男節 嬉し鰹節    ヨーイヤサ 焼津節
    木の芽ゃ吹いてきた しらすがはいる お前ちゃおいでよ ヨーイヤサ 網ひきに   見たか聞いたか 乙吉だるま 片目いれたは ヨーイヤサ 八雲さま
という訳で、今日最後のカットは、これで決まり ! (^_^)241010_144

今回の焼津三港めぐりとグルメ旅、楽しんでいただけただろうか。

ぜひ一度、あなたも実際に足を運んで、焼津の味と景色を、心ゆくまで堪能してもらえればと思う。

-美味ららら, 食材物語
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