食べごろ撮りごろ

料理カメラマンの美味しい写真の話。

食材物語

桑名のはまぐり漁、ブランドを支えるサスティナブルな挑戦とは!

投稿日:2019年5月29日 更新日:


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午前4時20分、東の空に赤味がさしてくる。今日、はまぐり漁に乗船させてもらう赤須賀漁港は、木曽三川の長良川と揖斐(いび)川が合流して間もない川の西岸にあり、今日体験するはまぐり漁のほかにも、シジミ漁や冬場のシラウオ漁、黒海苔養殖でも活気のある港だ。

長良川と揖斐(いび)川に木曽川を含めた木曽三川には、木曽の山々から多くの栄養分が流れ込み、伊勢湾へと流れ込む汽水域に昔から豊かな漁場をつくってきた。
赤須賀漁港
赤須賀漁業協同組合HPより

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5時近くになると三々五々漁師さんたちが港に集まってくる。今日、私が乗船させてもらうのは優しい笑顔の樋口さんだ。(こわい人でなくてよかった(^^;)
出港前の船の点検をする姿は朝日に映えて絵になる!!
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いよいよ出港だ!

それぞれの船か港を出てゆっくりと沖の方へと進んでゆく。
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朝日に輝く揖斐長良大橋

揖斐長良大橋を過ぎ、何艘ものもの船がその時を待つ。
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突然、樋口さんの船はエンジン音を鳴り響かせ、波しぶきをあげて沖へと進みだした。
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さっきまでの静けさが嘘のように、我先きと目当ての漁場を目指していっせいに船が走り出す。

15分ほど走り目的の漁場に着くと、いかりを下ろし、ゆっくりワイヤーを伸ばしながら船をいかりから遠ざける。
そして船の両側に積んである「ウンテン」と呼ばれるとがった刃のようなギザギザ゛がついた大きな鉄の籠を海に投げ入れ、船につけたウインチでワイヤ―をゆっくり巻き上げてゆく。
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興奮していて、ウンテンがよくわかるカットを撮り忘れたので、赤須賀漁業協同組合HPよりお借りする。

ウンテンには長い網がついていて、ワイヤーで川底をウンテンが引きずられ、その先の網の中にはまぐりが入ってゆくという仕掛けだ。ただ、その時砂もいっしょに網に入ってしまうので、途中何度かウンテンを船に付いた別のウインチで海面まで持ち上げ、入っている砂を濾し出す作業が必要になる。

その作業を左右それぞれ3~4回繰り返し、いかりに船が近づいたとき、ウインチでの巻き上げをやめ、ウンテンを海面から船の上に別のウインチであげる。
ウンテンの先の網だけが海の中にある状態にして、また船をゆっくりいかりから遠ざけるように走らせる。

そうすることで、網に残っていた砂をすべて海に濾し出してしまい、最後に船をとめ、砂が抜けてはまぐりや魚だけになった網を手で引っ張りあげるというわけだ。

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網の中にははまぐりだけでなく、カニやカレイも時々入っている。身のないはまぐりの殻もかなり入っており、樋口さんによると死んだり食べられたりしたものの貝殻だということだ。

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その次の作業は、網の中のものをいったんすべて青い籠に入れて、籠から少しづつ四角いふるいに移し、まずは空の殻や木片を取り除く。

そしてふるいをゆすりながら、まだ小さいはまぐりを手早く海に戻してゆく。



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赤須賀漁業協同組合では、漁師さんが採ってよいはまぐりのサイズは3センチ以上と決めており、それより小さいものはすべて海にもどさなければならない。このふるいの網の目の大きさがその基準となる。

そうしてこれが、輝く「桑名の地はまぐり」だ!
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貝殻の大きさが5~6センチあれば、それで6~7年ものらしい。

赤須賀漁業協同組合では、貴重な資源を保護するために出漁は週3回とし、漁獲高も大きさによって制限を設けている。桑名のはまぐりの年間漁獲量は、昭和46年の(1940年)の3,000トンをピークにそれ以降激減し、平成7年(1995年)には0.8トンにまで落ち込んだ。高度経済成長に伴う埋め立てや川での取水量の増加で多くの干潟が消えていったことが原因らしい。

なんとか貴重な資源を守りたい!赤須賀漁業協同組合を中心に昭和50年ごろから「人口種苗(しゅびょう)生産」に取り組む。人口種苗(しゅびょう)生産とは、はまぐりを人工的に産卵、孵化させ、それを育てて海に戻すという方法のこと。それ以外にも、干潟の保全や漁師さんたちによる植林活動も行い、その成果が平成14、15年ごろにやっと出はじめた。そして平成16年には昭和50年代に匹敵する57トンになり、ここ数年では200トン近くまでなんとか回復したとのことだ。

いったん失われた自然を取り戻すことは、並大抵の努力では成しえないことであり、赤須賀のみなさんの地道な活動に頭が下がる思いだ。

まさにこれこそが、 「サスティナブル」と呼ぶにふさわしい。
サスティナブル(sustainable)とは、「持続可能であるごとく、とくに環境破壊をせずに維持、継続できるという意味の英語」(日本大百科全集ニッポ二カより)

 

漁には時間制限もあるらしく、漁をはじめてか約4時間経ったころいっせいに船が港に戻りはじめた。
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笑顔がとってもいい!

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港では奥さまが待ってくれていて、今日採れたはまぐりの籠を大切に受け取る。
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樋口さんは休む間もなく、籠のはまぐりを少しづつふるいに入れて、置いてある水槽の中で揺らしなから汚れや細かなごみを取り除いてゆく。
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洗い終わったはまぐりを網の袋に移し、既定の重さになるように数を調整し、キロ数を書いたラベルを入れてゆく。
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はまぐりの大きさで、大、小に袋をわけてセリに出すとのこと。

袋詰めが終わると、さっそくはまぐりを車に積み込み、港の中のセリが行われる建物にもってゆく。

ちょっと待ってもらって奥さまとのツーショットを撮らせてもらった。(^_^)v
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せり場にはぞくぞくと漁師さんたちが今日採れて袋詰めしたはまぐりを並べている。はまぐりの他に、しじみを採る漁師さんも大勢いた。
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せりは、長いカウンターの前に仲買人さんたちが座り、漁師さんが順番に台の上に置くはまぐりやしじみを値踏みし、木札にチョークで金額を書いて、真ん中に立つセリ人に向かってその木札を滑らせる。これはなかなか他では見ないセリの風景だ。

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木札にはそれぞれの仲買人さんのマークがついていて、セリ人はもっとも高い値をつけた仲買人の名前と金額をその都度読み上げる。
セリはこのようにして淡々と進み、1時間もしないうちに終わった。時間は11時過ぎ。

モーレツにお腹が減ってきた!きょうは日曜日、はまぐりプラザに急がないと、地はまが売り切れてしまう!
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案の定、十組くらいが食堂の横にある展示ルームで順番を待っていた。ゆったりとしたスペースで椅子も多いので、ゆっくりはまぐり漁の歴史資料や写真に目をやることにする。
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今では建物の壁面の木は色も落ちてしまっているが、完成当時はきれいな木肌だったようだ。

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名前を書いてしばらく待っていると、私の名前が呼ばれた。順番がきたのかと思ったら、そうではなくて、「名前のところに料理も書いてくださ~い。そうしないと数に限りがあるので、無くなってしまうかもしれません。」
なるほど名前を書く紙の横にそれぞれの料理の札が置いてあって、それを持っていくようになっている。その札の数が料理の数という訳だ。

2,000円の焼はまぐり定食は予約制で、今日はやっていないとのこと。1,700円の赤須賀定食を食べている人が多く、焼はまぐり、はまぐり磯部揚げ、はまぐりフライ、ごはん、しじみ味噌汁という内容。
さっきセリのときに漁協の女性が言ってたが、このプラザのはまぐりは正真正銘桑名の地はまで、しかも採れたて。市内の有名店や、大阪や東京の料亭で食べるととてもお高い値段になるとのこと。

「うーん、赤須賀定食を食べるとビールが飲みたくなってしまう!今日は帰って、このデータを早く整理したいし・・・」

という訳で、涙をのんで1,400円のはまぐり丼としじみ味噌汁にした。
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甘めのタレがはまぐりフライの衣にいい具合に浸み込み、しっとりカリッと香ばしく、噛むと中からはまぐりが登場する。!さすが本物の地はまだけあって、柔らかくてとってもジューシー!ごはんに敷かれているキャベツもいい感じでタレが絡まっていて、これだけでも十分旨い!

そして、なんと、なんと、しじみ味噌汁じゃなくて、はまぐりのお吸い物ではないか!少々小粒だがはまぐりが2個も入ってて、三つ葉を添えてくれてるなんてにくいじゃない!
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いゃー、さすがはまぐりプラザさん。しじみも地物で美味しいんだろうけど、はまぐり汁とはびっくりポン(ちょっと古い)のサプライズでした。はまぐり汁ならではの乳白のつゆは上品で、もちろん身も柔らかい。
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しっかり満足のはまぐり丼&はまぐり汁でした。

はまぐりプラザの1回には、いろいろな漁の資料や、はまぐりやしじみの生態などのパネルが展示されている。
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はまぐりには、「ハマグリ」、「シナハマグリ」、「チョウセンハマグリ」の3種類があって、今、世間で「地はま」と呼ばれているのは「チョウセンハマグリ」の場合が多いらしい。ややこしいのだが、「チョウセンハマグリ」はれっきとした日本に生息するはまぐりで、鹿島灘や九十九里浜の外洋域に住んでいるため、汽水域に住む桑名のはまぐりに比べると、大きいけれど身が硬めらしい。
「ハマグリ」は桑名でしか採れないのかどうかわからないが、地元でみんなが「地はま」と呼ぶのは、もちろん「チョウセンハマグリ」ではないだろう。なにはともあれ、いろいろ説もあり、三者それぞれいいところを暖かく認めてあげよう。(^_^)

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はまぐりプラザのすぐ横には、「貝増」さんのお店がある。明治末期創業の老舗で、四代目の服部高明さんも桑名の地はまをこよなく愛し、その保全に力を注いでおられる。以前NHKのサラメシにも登場した京都の採色絵師の林美木子さんは、雅な絵柄の貝合わせには桑名のはまぐりの貝殻が一番とのこと。桑名のはまぐりは日本の芸術品としても林さんのお墨付きをもらっているのだ。
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今日は、はまぐり漁から、せり見学、そしてはまぐり料理と盛り沢山だったが、あらためて自分たちが何気なく食べている食材も、いつ危機に瀕するかわからないという事実や、それを絶やさないためにも、どう「サスティナブル」と向き合ってゆくかを考えさせられた1日だった。

桑名のはまぐり、ごちそうさまでした!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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