食べごろ撮りごろ

料理カメラマンの美味しい写真の話。

プロフィール


カメラマン スタート

写真とは縁のなかった大学生活も終わり、就職したのは静岡の広告代理店でした。

出身地の大阪営業所に配属になり、一年間悪戦苦闘ののち、ひょんなことから本社静岡の写真部門に転勤を命じられました。

写真には少し興味があって、時々雑誌を買っては眺めていたのですが、所長に営業として見切りをつけられたというのが実際のところだったと思います。(笑)

カメラマンになったのはいいのですが、まったく知識もなく、おまけに当時はすべてフィルム撮影です。

ポラロイドを切って写り具合を確認し、本番の撮影となるわけですが、今のデジカメのように撮れば写っているという代物ではなく、室内などはストロボでライティングをし、きちんと露出を合わせないと暗かったり、明るすぎたり、カメラマンとして覚えなければならない技術が山ほどありました。

写真学校を出たわけでもなく、カメラアシストにもついたことがない私でしたので、先輩カメラマンにみっちりしごかれ、肉体的には過酷な日々の連続でした。

今だったらあとでフォトショップでなんとかなることも、なんともならない(笑)のがフィルム撮影です。

現像が上がって来るまで不安は尽きません。気付かないまま余計なものが写っていたり、写っているべきものが写ってなかったりと、今考えても本当に恐ろしい~。

なかなか絵が決まらないで苦しくてはっと目が覚め、夢だと気づく時もありました。(@_@;)

そんな過酷な日々でしたが、唯一の救いだったのは自分で早く撮れるようになりたいという気持ちがあったので、なんとか精神的に持ちこたえられたことでした。

 

料理写真が最大の難関

2年目に入って、施設写真はなんとか曲がりなりにも撮れるようになったのですが(今思うと全然ダメですが)、一番の難関として立ちはだかったのが料理撮影でした。

新米カメラマンは、誰が見ても頼りなく、料理長やシェフにしてみれば不安だらけだったに違いありません。今思うと本当に冷や汗が出るほどですが、たどたどしい手つきで器を並べ、時間がかかるので料理の鮮度もどんどん落ちてゆきます。

当時、旅館やホテルの撮影がメインだったので、お客様にとって料理写真はもっとも気合いの入る撮影でした。

なかなか絵が決まらず、焦りと戦い、厳しい視線を感じながら必死でファインダーを覗いていたのを覚えています。

そんな新米カメラマンに我慢強く撮影の機会を与えていただいたことに、今あらためて感謝します。<m(__)m>

 

針のムシロの1~2年が過ぎ、少しづつですが並べ方にも工夫ができるようになってきた頃、次の壁が現れました。

どうすれば指名してもらえるカメラマンになるかということです。

当時私のような社員カメラマン以外にも、外部カメラマンが数人撮影を行ってくれていました。

お客様にしてみれば写真の出来が最優先であり、撮影がうまいカメラマンに指名がゆくのは当然のなりゆきです。

自社の仕事であっても、営業から撮影依頼がくるとは限りません。撮影はお客様が指名するカメラマンにゆくのは、今も昔もあたりまえの話です。

「どうすれば経験の少ない自分にも指名が来るだろうか。」

必死で考えました。スキルはすぐに上がるものではありません。

他のカメラマンが持っていない下地や小道具を工夫したり、カメラ雑誌を読み漁ったりしました。

でもなかなか成果は出ません。

 

そしてやっとわかったのです。

「必要なのはカメラの知識ではなく、料理の知識だ!」と。

あたりまえのことなのですが、器のレイアウトやライティングや小道具は、あくまでも料理を美味しく見せるためのものなのです。

料理が美味しく見えることだけを考えれば、何が必要か、どんな下地やレイアウトが良いのか、光をどうつくればよいのかが見えてきます。

料理のルールを知れば、料理長やシェフからも信頼をいただきながら、写真として必要なアレンジも許されます。

少しづつですが、呼んでいただける機会が増えてきたのもこの頃からでした。

 これから

気が付くとカメラマンになってもう35年ちょっとが過ぎました。

フィルムがデジタルに切り替わり、撮影と同じくらい撮影後のデータ処理が大切になってきています。

失敗をカバーする処理ではなく、撮影データをよりベストな状態に仕上げるための処理です。

今考えると不思議ですが、あの当時最も苦手だった料理撮影が、今では一番多くなりました。

ですが、美味しく見せるというテーマは今も変わりません。

これからは写真だけでなく、動画の時代とも言えます。

HPやブログ、インスタやFacebookに誰でも気軽に写真や動画を上げれるようになりました。

料理写真に対するとらえ方も多様化し、インスタ映え=美味しそうな料理写真とは言えないケースも数多くあります。

一方でインスタのカテゴリーの中で料理は確固たる地位をキープしていますし、旅行の大きな楽しみであることは今も変わりません。

多くの飲食店やホテル・旅館が料理写真にかける情熱は、これからも続くでしょう。

今後カメラマンに求められるのは、いろいろな発信チャンネルに合わせて、自由に写真の表現を変えられる対応力です。

インスタ映えする料理写真から、高級感あふれる懐石料理写真まで、はたまた写真では出せない時間と音を効果的に写した動画にも、カメラマンの確かな目と表現力が求められます。

今はシズルだけでなく、どう臨場感や空気感を伝えるかというリアルの時代に入っていると思います。

決まりすぎたアップの料理写真より、なんとなく素敵な空気感のある料理写真。

スマホの進歩で、いつでも、どこでも、誰でも、簡単にそこそこきれいな写真が撮れます。

そしてちょっとしたコツさえ覚えれば、写真は格段に良くなります。

私が新米カメラマンの時に経験した料理写真のハードルはかなり低くなっています。

ぜひこれからより多くの人に料理写真のコツを知ってもらって、どんどん美味しそう写真が増えてくれるとうれしいです。

そして私自身もプロとして、新しい料理写真の表現をこれからも探し続けたいと思います。

それと、今やり始めたことがあります。

「旨い料理は、旨い食材があって初めてつくれんだよね。」

腕のいい料理人の皆さんは、口をそろえてそうおっしゃいます。

静岡は、全国有数の食材の宝庫です。これから少しづつ時間の許す限り生産者さんを訪ね素晴らしい食材や、それを育てる人たちの様子を伝えられればと思います。

私に与えられた写真という道具で、少しでも皆さんのお役に立てれば、こんなうれしいことはありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿日:2018年6月23日 更新日:

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